『星降る夜に~しあわせな眠りの音楽』
~広橋真紀子さんインタビュー
『星降る夜に~しあわせな眠りの音楽』は、静かな夜と美しい星空をイメージさせる、リラクセーション・アルバムです。
寝る時に耳を澄ませば聞こえてくる虫の声、風の音などの自然音を背景に、優美な旋律で静かな夜のストーリーが展開されていきます。
音楽を手掛けた作編曲家の広橋真紀子さんに、音楽を制作する上で心掛けていること、作品への想いなどお話しを伺いました。
――広橋さんはこれまでにデラで数多くの作品を手掛け、リリースされた作品の数々は、 リスナーの皆様から、多くの反響をいただいております。広橋さんが癒しの音楽を制作する上で、常に心掛けていることはありますか?
広橋:『癒しの音楽』を聴こうと思う時は、きっと、元気いっぱいの時ではないように思います。心や身体が疲れていたり、弱っていたり、落ち込んでいたり、あるいは緊張をといて、ほっとひと息、休みたい時なのではないでしょうか。
そんな時は静かに穏やかにやさしく、「どうしたの? お疲れ様」「頑張っているね、大丈夫だよ」と声を掛けてもらいたいものだと思います。私はいつも、音楽でそれを伝えられたらいいなと思っています。 音楽を聴いた方が、ふう~っと深く息を吐いてリラックスして、“自分はこれでいいんだ”と 安心していただけるような音楽づくりを心掛けています。
――広橋さんご自身が、音楽に癒されたシーンやご経験はありますか?
広橋:私にとって音楽とは癒される存在というよりは、いつもかたわらにいる友達のような存在です。私の場合、コンサートやライブで音楽を聴くというよりは、イヤホンで一人、音楽を聴くことが多いので、音楽はいつも静かに隣に寄り添ってくれる、ずっと当たり前に一緒にいてくれる唯一の存在でした。
しかしある時、音楽が隣からいなくなってしまったことがあります。
音楽の仕事を始めて、しばらくハードワークが続き、音楽を作ることが辛くなった時期です。 その頃は冷蔵庫のジーっという音、蛍光灯の音、換気扇の音、時計の音、全ての生活音がうるさく聞こえて、家中のコンセントや電池を抜いて音楽制作をしていました。
他の人の作る音楽が素晴らしく思えて、それを認めたくなくて、すべての音楽にケチをつけたり、反対に落ち込んだり。 自分の作る音楽が、「苦しい、助けて」といっているように聴こえました。
ふと気づくと、自分の隣に音楽がいなくなっているのがわかりました。
友達だった音楽が、音楽を嫌いになった人の元から去ったのだ、友達だった音楽を騙して仕事をしていたのがばれたのだなと思いました。それに気づいてから、他の人の音楽を聴かなくなりました。
どうせ、他の人の音楽は素晴らしいに決まっている、自分の音楽よりもメロディもアレンジも録音もミックスもずっと素晴らしく、まさっている。 でも他の人の音楽をうらやんでいるうちは、自分の音楽は自分の元へ帰ってこないのだと思いました。
そのような経験を経て、今では、音楽が自分の元へ戻ってきたように感じています。まだ完全ではないけれども、今は誰よりも私のそばにいる音楽を信じています。
――9月28日に、広橋さんのオリジナル・アルバム『星降る夜に~しあわせな眠りの音楽』が リリースされました。『癒しの森~こころを癒す音楽』(2020年)の続編とも言える今作品ですが、前作との違いや、今作に込めた想いなど教えてください。
『癒しの森~こころを癒す音楽』は記憶の奥深くにダイブして自分の魂をみつめるような音楽です。凛とした清らかな精神世界で祈りにも似た、静かな音楽アルバムになっています。
『星降る夜に~しあわせな眠りの音楽』はタイトルの文字どおり、「何も考えないで、おやすみ 大丈夫だから」と子供を寝かしつけるように、ただただ全ての人を安らぎの眠りに誘いたいという想いで制作しました。
シーンは夜ですので、虫の声やフクロウの声なども入れて、とてもリラックスできるアルバムに仕上がったと思います。 ロマンチックな夜の天の川、あるいはひとりぼっちで見上げる北極星、神秘的で神々しい天空、白く輝く月……。 たくさんの幻想的なイメージが詰まっています。
眠ってしまって最後の曲まで聴けないかもしれませんが、最後は「明けの明星」という明け方、東の空に見える金星の曲です。 太陽が昇る前のわずかな時間に、光る星をテーマにした希望を感じられるような曲です。
もし、また眠れない夜を過ごしてしまったとしても、明日は新しい一日、きっといいことがあるよ、と少し勇気を感じてもらえると嬉しいです。
――『星降る夜に~しあわせな眠りの音楽』の制作過程で、特に印象に残ったことはありますか?
今回、星空がテーマのアルバムということもあって、星について色々調べましたが、印象に残ったことは、宇宙や地球の成り立ちについてです。
地球では、これまでに5回も大量絶滅が起きているということ、約2億年前に起こった大量絶滅では、地球上の90%~95%の生物が絶滅したそうです。
もしその時に大量絶滅が起きなければ、今人間はいなかったのかもしれませんし、全然異なる生物が進化して、知的生命体になっていたのかもしれません。
今、自分がここにいることは奇跡であり、また同時にただの偶然にすぎないのだなと思いました。
そして、宇宙が生まれる前、ビッグバンの前には何もなかった? いいえ、そうではありません。 “何もなかった”という概念すらなかったのです。“何もない”ということは、“何かある”ということがあって初めて認識できるのです。 「無、すらも無い」ってすごいですよね。
最後に、人間について。
「人間」は他の生物と違って唯一、“なぜ生きているのだろう” “死んだらどうなるのだろう”と考える生物です。
“なぜ生きているのだろう”ということは、宇宙規模から見ればただの偶然で何の意味もないことのように思えますが、人間は「意味」を求めます。 それで神や宗教を作り、天国や来世などを考えるのかもしれません。
地球上で人間だけ他の生物と全く違うなんて、本当に不思議です。……星空がテーマですが、人間って面白いな、という思いに行き着きました。 そんな途方もなく大きなことを考えると、日々の悩みが本当にちっぽけに思えていい ですよね。
悩みがある方、閉塞感やストレスを感じていらっしゃる方は是非、このアルバムを聴いてほしいです。
――CDのブックレットには、広橋さんにセルフライナーを執筆いただきました。星空の神秘や音楽の魅力を味わえる内容ですね。最後に、今後の抱負があればお聞かせください。
私の音楽は後世に残らないかもしれません。 それでも今を生きる方々のお役に立てるなら、とても光栄です。 ですので、心がちょっと弱ったな、と感じた時に“広橋真紀子の音楽がある”と思っていただけるような、心のお守りになれるような音楽を、これからも作っていきたいです。
たくさんの人のためにはならなくても、一人でも救われたと思ってもらえるなら、私は生 きている意味があります(人間なので意味を求めちゃいますね)。
元気になったら、あなたの好きないつもの音楽をコンサートやライブで楽しんでください。 疲れたら、弱ったら、帰ってきてください。
いつでもひっそりと待っています。
――ありがとうございました。
(インタビュアー:デラ制作部)
Profile
広橋真紀子(ひろはし・まきこ)
新潟県出身。国立音楽大学作曲学科卒。在学中からアーティストに曲を提供し、卒業後はバイオシック環境音楽研究所を経て、癒しの音楽に目覚める。聴いた人が”ほっ”とできる音楽をモットーとして、ナチュラルかつあたたかいサウンドで独自の世界を切り開いている。またリラクシングピアノシリーズを手掛け、新しくて美しいピアノアレンジは海外でも評価されている。